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今では小学生だって持っている電話。
昔はショルダーバッグくらいのサイズで肩に掛けて持ち運んでたみたいですね。
商談用に車に設置してあったものもあったらしいし。
ポケベルは触ったことはないですけれど、あれもかなり使われていたようですな。
数字の当て字で連絡を取り合うって結構難しくないですか?
僕が生まれたくらいまでは使われていたそうですね。
今回はそんな電話に関する話。
僕は電話を掛けたい
ベッドに寝転んだ状態でそう感じてからどれくらい時間が経っただろう。
割と朝早く起きたはずなのにもう昼間になろうとしている。
太陽がとっくに昇っているにも関わらず僕はまだベッドでスマホ
この星の重力によってベッドから出ることが出来ないと言い訳しておく。
電話を掛けるためにスマホを手に取った。ココまでは順調だ。問題はコレから。
電話のアイコンから登録している番号をタッチするだけ。5秒も掛
何が僕をここまで留めているのだろう。
原因は分からない。
電話を掛けたいはずなのに、掛けられない。
まだ電話をするタイミングではないのかも、
しかしタイムリミットは迫っているはず。
どーでもいいこと、動けばすぐ済む話なときに限ってアレコレ無駄な心配をしてスタートが遅れる。僕の悪い癖だ。
心のモヤモヤを紛らわすためにいくつかのSNSを飛び回ってTLを何度も更新。
日本中のどーでもいい誰かの今日の予定やネタをつぎ込んだ書き込みをいつもは読
SNSは僕の人生のほんの数分だけ削ぎ落として娯楽に変えてくれる。まるで人の時間を盗むために発明されたのかとさえ勘ぐってしまう。
そりゃ姿勢が悪くなったり、指の形が変わってしまうはずだ。
僕は電話を掛けたい。
よし、10時になったら電話を掛けよう。さぁ、11時になったら電話を掛け
そーやって最初から適用するつもりのないルール改正を続けていたらもう
もう、間に合わないかも。いや、まだ大丈夫かもと少し先延ばしてみる。
根拠の無い自信による思い込みだけは一人前だと思う。
これでいくつの失敗をカマしてきたのやら。
まだ大丈夫。でも電話を掛けなきゃ。いや、まだ大丈夫。
結論の出ないやる気なしの脳内会議に嫌気が差し、枕に頭を押しつける。
この決断の鈍さが大嫌い。
電話なんて相手の事情を考えずに自分の都合を押し付ける自分勝手な道具だ。
会社じゃ個人PHSを持たされるからどこでもかしこ電話が鳴りやがる。僕は電話が嫌いだ。
ゆっくり便座に座らせてくれよ。
僕は電話を掛けたい。
久しぶりに電話なんてしたらあっちはどう思うだろうか。
かるーく
「久しぶり!元気だった?」
なんて気さくに言ってくれるだろうか
「全然連絡してくれなかったよね。他のところ行ってたんでしょ?ふーん 」
むしろひと思いに言ってくれた方がこっちも気持ちが晴れるのに、身勝手だよね。
確かに値段で言えばわざわざココじゃなくても安くてスパッと済むところもあるし、実際使っていた。でもやっぱりあーいうところって機械的な感じが強くてどーも好きになれない。
お値段以上のサービスを要求するのはクレーマーと一緒だから口には出さないし、しようとは思わない。
初めて会ったのは4年前くらいだったかな。
君は緊張している僕に優しく話し掛けてくれたのを覚えている。
こういうところは初めてだと言うと「心配しなくていいですよ」
あっと言う間に天井の優しい照明が見えて人肌ぐらいの温もりに包まれたのを覚えてい
たまにしか会わないけど、会うたびに会話の内容は少しずつだけど増えていった。
出身地のこと、仕事のこと、身の上話。
上手く喋れないのは薄々感じていただろうね。
そんな僕にも時間を潰すため、間を空けないためだと分かっているのに彼女はうんうん頷いてくれる。
そーいえば休みの日はずーっと寝てるって言ってたけどホントはス
会うときはちょっとこじゃれた服装で行くように気をつけているけど、スケボーするときはちょっとダボついたパンツとか履いちゃうんだよね。
全然そう見えないよね。イケイケじゃないし。ところで「イケイケ」って死語かな?
こんなに通うと思わなかったから、
行くたびに言うタイミングを見定めるけど、
クリスマスイブに行った時なんて帰りぎわに「今日の予定は?」
予定なんか何にもあるはずないでしょ、って。分かってるはずなのに。
僕は電話を掛けたい。
この星の重力に打ち勝ちながら上体を起こした。
行ける、、、行けるぞ。
ゆっくりベッドから足を下ろし、そばにある座椅子に座り込む。
スマホのディスプレイと睨めっこ。
まだ。
まだ時間はある。いや、もうギリギリかも。
タバコに火を付けて紫煙をくゆらせる。
コーヒーのボトル缶に灰を落とす。
そういえばこの電話番号は合っているのだろうか。名前で検索してみる。絶対合っているハズだけど。
チープなホームページを見て確かに間違いないことを確認。
パソコンを立ち上げyoutubeのサイトを開く。
最新のスケボーの動画を見て寝起きの頭を少しだけ起こそうとする。
海の向こうの会ったこともないスケーターのトリックやスタイルに憧れる。
ふと思いつきスマホから検索エンジンへ。
「予約 電話 掛けられない」で検索してみる
『「予約 電話 かけられない」ではありませんか』と表示される。うるせえ。
意外と世の中には自分と同じく予約の電話が苦手な人が多いようだ。
理由としては「想定外の質問をされたら困る」とか「そもそも電話が苦手」「何から伝えれば良いかわからない」といったところ。
電話というのはメールやメッセージアプリと違って相手と時間を共有することになる。当然、早くやり取り出来れば良いが相手を待たせてはいけないという考えから苦手意識が出てくるのだろう。
自分はと言えば「そもそも電話が苦手」に入る。自分のペースで何事も進めていきたいワガママな性格である。
ならば。
「よしっ」と心の中で覚悟を僕は電話を掛ける。
何本目か分かんなくなったタバコの火を消し、今日起きて初めての声を出すために咳払いをする。
小さなディスプレイに表示された電話番号をタッチし、耳をすます。
何度目かのコール音の後、女性の声が聞こえた。
「もしもし、○×です」
優しい声だけどドスの聞いた声
訳したことはないけれど多分英語でオシャレな意味の店名なんだろう。だいたいどこもそんな感じのはずだ。
「あ、もしもしケンボーです」
なんで電話って最初に「あっ」って言っちゃうんだろう。陰気な奴って思われちゃうよね。
この「あっ」って最初に言うことで声の音量を調整しているとかいないとか。
「ケンボー君?久しぶり!」
僕が電話を掛けるためだけにどれだけ悩んでいたか、まったく分かっていない。分からないよね。そんなヤツいないもんね。
「あのーカットの予約入れたいんですけど」
「いつも急だよね。んー じゃあコレから大丈夫?」
「コレからですね。10分くらいで行けますよ」
「はーい。じゃあ待ってまーす」
「ういーっす」
プツっと電話が切れた。
全身の力がフッと抜けた。脇汗がすごい。
あー、やっと予約が出来た。あーよかった。もっと早めに掛けときゃ急がなくて済んだのに。
なんで毎回電話でウジウジしちゃうんだろうか。
また数ヵ月後に同じ風に悩んじゃうんだろうな。
美容院に電話するのってなんか勇気要りませんか?